今年度の調査研究では、昨年度に引き続き、インテンシヴな事例研究によって景観保全運動の成立機序の解明が試みられた。事例研究の対象は、やはり和歌山市・和歌の浦の景観保全運動と和歌山市・雑賀崎沖(雑賀の浦)の景観保全運動であったが、研究実績の概要は、次のようなものである。 1.昨年度の調査研究においては、「景観体験は一面では個々人のものであり主観的なものであるが、他面では共通・共有の体験として集団のものでもあり得る。景観保全運動の成立機序の重要な一環は、共通・共有の景観体験の想起・創出であり、景観体験の共通・共有化である。」という知見を得ることができたが、今年度の調査研究では、更に、景観保全運動の中心となっている集団には、互いに理解し合える景観体験と景観観が共有されており、こうした景観体験や景観観が運動を通じて、他の住民や市民にメッセージとして伝達されることにより、そうした人々の共感を誘発し、また、影響を及ぼしている様相が見られ、こうしたことが運動成立の不可欠な要素となり、運動にダイナミズムを与えているのではないか、ということが明らかになりつつある。 2.以上のような知見からすれば、次の調査研究における焦点の一つとなるのは、運動の中心となっている集団はどのようにして形成されたのか、ということである。現在、こうした点での調査研究を継続している。 3.また、一定の景観体験や景観観を共有し運動の中心となる集団は、他の人々から共感を誘発し、影響を及ぼしており、このことが運動にダイナミズムを与え、運動を成立せしめているとすれば、その際のメカニズムは如何なるものであるのか、こうした点についても現在、調査研究を継続しているところである。
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