本年度は、4年計画の基礎作業として、地域移動研究の道具立てを整えるとともに基礎資料の収集に努めた。 これまで、地域移動の分析にはいくつかの指標が用いられてきた。流入数、流出数、純移動量、人口交流率、人口べロシティー、移動選択指数、移動効果指数などはその代表的なものである。これらの指数は基本的かつ有効なものであるが、「田舎ぐらしブーム」といった人口の地方回帰現象と関わりのある「経済構造の規定から比較的独立した自由な居住地選択」をとらえるにはやや不都合である。そこで、社会学の階層移動研究における 「純粋移動」や「開放性係数」に着目し、それらを地域移動に応用することを試みた。 社会階層間の流動性(開放性)をとらえる際には、(1)実際の移動(事実移動)が、職業構造などの変化に規定された移動(強制移動)とそれ以外の部分(純粋移動)に分割され、(2)移動障壁のまったくない(統計的に独立した)仮想状態における純粋移動量に占める現実の純粋移動量の割合が開放性とされる。 資料として集められたさまざまなしベル(国内全体・県内外など)の人口および人口移動データをもとに「純粋移動率」や「開放性係数」の適用可能性を検討した結果、さらなる概念的整理とともに、地域分類と年次幅の適当な選択がないと十分なことは言えないことが明らかになったが、都市化・産業化といったハードな構造にもとづく移動とは異なったソフトな移動像をこれらの指標からとらえることの妥当性はほぼ確認できた。それゆえ、今後UターンやJターンについて、新たなデータ分析をもとに、従来の議論を越えた議論が展開できると思われる。 地域移動研究と階層移動研究は、これまで比較的独立に研究されてきた分野である。しかし、両者が共通して使えるアイデアは多い。次年度は、SSM調査なども考慮しながら、地域移動にかかわる独自の意識調査を計画する予定である。
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