本年度は若干の補充調査を実施するとともに最終成果の取りまとめ作業を行った。 取りまとめにあたっては、日本的特殊性が顕著に現れ得る藩政時代に藩境となっていた中小規模の地方都市を分析対象とし、その産業化過程、内発的発展と地域の担い手に着目して分析を行うこととした。具体的には、藩政時代の替地であった愛媛県伊予市を素材とし、海運業、削り節産業と地域との関わりについて、その各々の担い手に対する聞き取り調査のデータから主たる検討作業を進めた。そこで明らかとなった内容は次の通りである。 (1)内発的発展を考える上では、政治経済的なシステム同士が接触する場として地境が重要な意味を持つこと。 (2)東アジアにおける内発的発展にかかわる地境として、近代直前の支配のあり方が重要で、日本では藩境がもつ意味が大きいこと。また、日本では中国や韓国とは異なり、ある種の自由空間の形成と結びつき得たこと。 (3)地境であった調査対象地では江戸時代に民間の力で港湾整備がなされ、「諸役御免の地」として歴史的にある種のアジールが形成さていたこと。 (4)こうした空間の形成が、海運業、削り節産業などの内発的発展の基礎条件に結びついていたこと。 (5)現在でも全国的に圧倒的なシェアを確保している削り節産業については、漁業、水軍、農業にかかわる相異なった生活様式や価値観が地域の中で結びつくことによって発展し得ていたこと。 (6)一方で、地境であったことと関連し、かつて見られた生活様式や価値観の相違が、現在では市内の各地域間の齟齬として残存していること。 (7)この齟齬が、内発的発展の担い手と地域の担い手との間に断層を生んでいたこと。 (8)内発的発展を地域と結びつけるためには、自由空間を生み出したような地域文化の一般化が不可欠となること。
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