本研究は「混乗漁船」の出現に表象される「漁業労働力の国際化」を社会・文化的な視点から検討しようとするものである。とりわけ、日本の国内外におけるカツオ漁業を事例として、フィールドワークにもとづいて実証的に研究することが本研究の前提となる。その際に、従来の研究で看過されてきた漁業労働に焦点をあて、カツオ漁船乗組員の漁船内での生活実態を把握する。カツオ漁船内で展開される生産と消費などの諸活動にみられる船上コミュニケーションの実態を探ることが中心課題となる。 最終年度にあたる本年度(平成14年度)は本研究課題に関わる実質的な調査研究を展開するとともに、過年度の資料整理を行い、そのまとめを進めた。文献・情報収集を行い、漁業労働の特性を確認しつつ、船上コミュニケーションの実態把握を試みた。本年度は過年度に把握した近海カツオ漁船の生産・漁船動向を踏まえて、高知県の近海(中型)カツオ漁船の事例を重点的に取り上げ、インタビューを中心にしたフィールドワークを推進した。また、国立民族学博物館や広島大学などの研究機関で関連する情報を収集した。 カツオ漁業の漁業労働の特性(危急性、不規則性など)にもとづく船上コミュニケーションの特異性が検討できた。それに加えて、異なった社会的・文化的な背景を持つ漁船乗組員が10カ月あまりの間、同乗する混乗漁船という性格からも、そのコミュニケーションや人間関係を複雑化・構造化させている様態が明白になった。現在の日本漁業が置かれている環境を考慮すれば、日本船籍のカツオ漁船においても、南太平洋・ソロモン諸島の合弁カツオ漁船と同様に、OJTは人材育成・漁業開発の点からも有効な方法と判断でき、それには船上コミュニケーションの分析が極めて重要であると考えられる。
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