本研究では、「混乗漁船」の出現に代表される「漁業労働力の国際化」を社会・文化的な視点から検討した。カツオ漁業を事例として、フィールドワークによる実証的な研究を推進した。これまでの研究で看過されてきた生産(漁業労働)と消費(衣食住・余暇娯楽)の関連性も念頭に置いて、カツオ漁船乗組員の漁船内における生活(海上生活構造)を把握し、カツオ漁船乗組員の諸活動にみられる船上コミュニケーションの実態を探った。主たるフィールドはカツオ漁業の盛んな沖縄県、高知県、三重県、静岡県などである。基本的な文献収集、カツオ漁船への乗船による参与観察、カツオ漁業関係者に対するインタビューをもとに、漁業労働と船上コミュニケーションの実態把握を試みた。本研究によって得られた知見等は以下の5点である。 1.カツオ漁業の持つ漁業労働の特性としては、危急性、不規則性、随意性、危険性などが指摘できる。 2.混乗漁船という特殊性(異なった社会的・文化的な背景を持つ漁船乗組員が10カ月あまりの間、同乗して操業すること)から、漁船乗組員双方に文化変容をきたす。とりわけ、技術指導を行う日本人乗組員から技術習得を求めるソロモン人乗組員への影響が大きいことが、消費的な生活局面で顕著にみられる。 3.漁業労働と船上コミュニケーションの関係については、混乗漁船という性格から、漁船乗組員のコミュニケーションや人間関係を複雑化・構造化させている。 4.漁業先進国の日本が諸外国から求められる人材育成・漁業開発において、OJTは極めて有効である。 5.OJTのあり方を検討する場合に、船上コミュニケーションの実態把握とその分析は不可欠である。
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