研究概要 |
2年にわたる本研究の最大の目的は、戦後日本社会における規範の変容と崩壊の実態を解明することである。 そこで11年度は、日本人の規範意識の現状を把握するために、規範意識のうちの性別規範、年功序列規範、医療をめぐる意識の3つに焦点をあてて、質問紙を用いた意識調査を行なった。これら3つの規範意識のうち、性別規範と年功序列規範は、日本社会の制度を根底で支えている規範であり、医療をめぐる意識は、近年の医療技術の急激な進展にともない大きな変化を強いられている意識である。調査は、国家公務員、地方公務員、製造業の民間企業2社、大学病院に従事する人々を対象にして行なった。回収数は、国家公務員390,地方公務員388,大学病院1212、民間企業2社は、それぞれ436、399(全体で3806票配布して、回収数2825票であり、回収率74.2%)であった。 12年度は、3つの規範意識にそくして収集されたデータの統計解析を、重回帰分析およびロジスティック回帰分析などの方法を用いて、行なった。その結果、(1)性別規範については、性別役割分業への否定的な意識がかつてより強くなっている一方で、家事をはじめとする実際の行動の場面で、それを実現させないメカニズムが存在すること、(2)年功序列規範については、人々の意識の上では、年功序列よりも能力主義を尊重する傾向があるが、職場では、年功序列と能力主義とが併用されているという現実があること、(3)医療をめぐる意識では、医師と患者との間に相変わらず意識のギャップがあること、しばしば医療専門職として一括りにされる医師と看護婦との意識が多くの面で対照的であること、(4)以上3つの規範意識から考える限り、日本人の規範意識は、ゆるやかに変化していることが、明らかにされた。
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