平成13年度は、研究課題の最終年度であるために、これまでの2年間の研究成果を踏まえて総合的な視点からベトナムにおける児童福祉政策の現状と課題についてまとめることにした。特に前年度までの2年間では「要保護児童の発生要因とその背景および具体的な児童福祉施策」の実態調査研究をホーチミン市にある孤児院や障害児施設および路上生活児を中心に分析を行った。その結果、その多くの要保護児童が地方の農村部から流出してきたことが分かった。そこで最終年度である今年度は、農村部の要保護児童を対象に絞って、本研究課題の「ベトナムの児童問題に対する社会福祉政策」についてまとめることにした。 研究方法としては、これまでまとめてきた要保護児童の問題点と課題を整理分析したうえで、ホーチミン市から170キロ離れた場所に位置する農村部のハンタン県ラ・ジ地区を調査研究対象地域として選択し、そこでの要保護児童の問題点と課題について、2年間の研究成果内容との比較分析を行った。なお、調査研究対象地域として選んだ理由は、ホーチミン市周辺の中でも、貧困層が多いことでも有名でもあり、また、当地から多く者が都市部ホーチミン市に流失していることが以前の調査結果からしても分かっていたことが最大の理由でもある。現地での実態調査等は、当地の人民委員会の全面的協力を得て、路上生活児の聞き取り調査、障害児を抱える家庭の聞き取り調査および小学校での児童に対するアンケート調査を実施した。その研究成果として、次の幾つかの点に要約することができた。 (1)ラ・ジ地区には周辺の農村部から仕事を求めて流出してきた家族が増加傾向にある。そのために人民委員会も把握できていないケースが生じている。そうした社会的背景もあって、小学校に行っていない子どもが多く存在し、児童労働もしくは家族から離れて路上生活をしている子どもが存在している。 (2)調査の結果、この地区には、約100名の障害児がいるが、その多くの障害児は専門的な治療・訓練を受けることなく、家庭で在宅放置された状態の子どもが多い。 (3)地区での就学率は、極めて低く、仮に都市部に出て仕事に就いたとしても、その多くがインフォ-マルセクターの分野で働くことなになり収入も低い。また、当地を離れてホーチミン市で暮らしたいと考えている住民は、多く存在している。そのことは都市部で路上生活者を送る予備軍ともいえる。ハンタン県は失業者が多く、都市部と農村部との所得格差が拡大している。このため生活困窮家庭にある子どもたちの教育、医療・保健、栄養などにも大きな影響を及ぼしている。それゆえ農村部での要保護児童の問題は都市部とは違って多様化・複雑化した問題点や課題が山積している。特に基本的生存権すら保障されていない場合がある。
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