本研究では、ベトナム社会主義共和国の児童福祉政策の現状と課題について明らかにすることを目的とした研究であった。とくに、、BHN(Basic Human Needs)の視点から、児童(障害児も含む)の就学、児童労働、孤児、栄養不良など児童を取り巻く問題と課題に焦点を絞って、社会的、生活的環境から生起する諸問題について分析を行った。分析方法としては、ホーチミン市内にある児童福祉施設(孤児院・障害児施設)の実態調査およびホーチミン市内と農村部(ハンタン県・ラジ地区)の路上生活児の聞き取り調査を実施した。その調査研究から児童福祉の取り組みと問題点を整理し、今後の児童福祉の課題について考察を行った。その研究成果の概要として、次の幾つかの点に要約することができる。 (1)児童福祉に関する行政機関は、必ずしも体系的、総合的な支援システムとして体制が確立されていない。また、児童福祉対策にともなう法整備が遅れている。 (2)産業化にともなう家族機能の変容が、児童と家族環境を取り巻く環境の変化を生み、その結果として、児童養護の機能低下を招き要保護児童を生み出す要因となっている。 (3)生活環境の変化と所得格差の拡大および失業者が増加したことで、要保護児童も増加している。とくに、農村部ほどその傾向が強い。都市部の路上生活児や孤児の多くは農村部から流出した未就学児、小学校中退児の児童で占められている。 (4)近年、要保護児童は多様化・複雑化し、児童の疎外感を一段と高めている。とくに、障害児の基本的生存権すら保障されず遺棄されるケースが多い。 (5)児童福祉の社会的基盤である児童福祉施設の整備拡充はもとより保健、栄養住居および教育の保障の確立を目指した、児童福祉の抜本的な改善が図られることが望まれる。
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