研究の理論的基盤を確立するために、国際結婚、多文化家族、マルチカルチュラリズム一般に関する先行研究文献資料を収集整理するとともに、調査対象地域における韓日二重文化家族のライフスタイルとネットワークの実態を解明するための基礎的、準備的作業として、調査対象となる韓国人女性たちが形成している地域的交際ネットワークへのラポールを高めるとともに、キーパーソンとみなしうる韓国人女性数名への予備的な聞き取りを行なった。 予備的な聞き取りは、行なったケースと面接の深度がともにまだ不足しているため、現段階の収集データから確定的な傾向を読み取ることはできない。あえていえば、現段階で面接に応じてくれた女性は、日本社会に比較的よく適応しているケースとみなしうるにもかかわらず、ケースによってかなり異なるタイプの自己のアイデンテイティと周囲からの役割期待の乖離に悩んでいる傾向がみられた。たとえば、あるケースは日本人配偶者からの、「日本人と同じように」行動することへの過剰な期待(「『中元やお歳暮への礼状ぐらい書けるだろう』って言うのよ」*)に悩んでいるかと思えば、別のケースは地域社会が何年たっても自分を「韓国人」としてしかみてくれず、たえず「韓国人」としての発言を求められることへの不満を訴えた(「何年たっても『韓国ではどうなの?』 『韓国は・・・』 ・・・。 ここに住んで20年近くになるんだから、今の韓国のことなんかよく知らないのに」*) *-面接は、韓国語と日本語を適当に混ぜて行なった。「 」内の表現は発言の趣旨の意訳であり、逐語訳ではない。 今後引き続き、予定している全韓国人女性だけではなく、他の家族成員や地域社会における日本人の知人友人などにも面接をおこない、ライフスタイルとネットワークの全般的解明をめざしたい。
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