フォーカス・グループ・インタビューのデータに、個別的な半構造化質的インタビューのデータを加えて分析し、さらに組織的社会化(organizational socialization)の理論を適用することによって難病児親の会の新たな組織論課題を明らかにすることができた。それは「会員意識と仲間意識のパラドックス」と呼ぶべきもので、要するに、親の会のメンバーは同様の体験を保持することによって強烈な仲間意識をもつのであるが、そのため組織的社会化の必要性が顕在化しにくく、実際にその過程は進められていない。結果として強い仲間意識をもつ集団でありながら、組織活動に積極的に参加する会員が極めて少ないというパラドクシカルな事態を招いている。それが親の会の「役員のなり手不足」の問題を発生させているのではないかという仮説を提出した。またSchein(1971)のinclusion boundary modelを応用し、親の会の「リング状中空モデル」(the circle-with-a-ring-hole model)を提出した。それによれば親の会には会の周辺で受身的に参加している会員層と、献身的に活動に自我を投入している役員層があり、両者の間には「中空」(void)が存在し、円滑な組織運営には欠かせない中間層(積極的に活動する非役員層)が不在なのである。その主な原因としては、(1)難病児の生死にかかわるほど重要である情報というpublic goods(親の会の活動成果である情報は誰にでも提供されているという点でpublic goodsである)の周辺にfree ridersが現れ、それが厚い受身的な会員層を形成する結果になっていると思われること、(2)難病児の介護の必要性や難病の希少性のために、役員会を除く会活動が制限され、役員ではない会員は会の活動にかかわる機会が少なく、したがって組織的社会化が行われる基盤を欠いていること、そして、(3)組織的社会化を推進していく上で不可欠である、組織の目的やあるべき組織形態が役員自身にも明確に意識されていないことであった。
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