実践的研究として、「アジア社会論」の素材ソフトとしてマルチメディア教材「Rice in Asia ; Lives of seven farmers」の制作を行った。シラバスの作成にあたり、アジア社会の比較の基軸として「稲作」に着目し、稲作農家のライフヒストリーを採集した。彼の生きざまをとおして日本の稲作農家を考察し、アジアの稲作農家の比較検討ができるように全体の構成を練り上げた。テキストの内容に対応した映像を既存資料から選択した。テキスト及び映像資料の構成が出来上がった段階で、テキストと映像を混在させたマルチメディア教材としてCD-ROMの制作を行った。専門家による評価をもとに、マルチメディア教材の制作プロセスにおけるテキストと映像資料の構成プランの練り直しまで行うことができた。 理論的研究として、調査研究における映像利用が社会学の分野より歴史がある人類学での先行研究を、まず整理することからはじめた。人類学では写真の利用や民族誌的映像、すなわちドキュメンタリーフィルムや映画などの動画も多く取り入れら、研究の対象あるいは道具として長く使われてきた。それに対し、写真の発明とほぼ同心時期に誕生した社会学は、その初期においては映像を多用した研究が行われたが、その後映像社会学は、1930年代から40年代にかけて、「ミドルタウン」を著したリンドらが、地域社会研究に写真を利用した体系的研究を行ったほかはあまり重視されず、再び1960年代までその姿を消してしまった。約150年を経過しマルチメディア時代をむかえた今日おいて、映像利用の社会学を体系的に整理することで、研究理論、調査、教育への展開が期待されていることが明らかになった。さらに映像コミュニケーションの社会学という新たな分野の試みも、今後期待が高まるという動向が予想されるなど、本研究によって新たな知見が多く得ることができた。
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