本研究の目的は、当時の共同研究の主な課題であったポスト・フォーディズム以降の都市空間のフロー化(生産/消費)の進展のなか、(1)「都市」と野宿者との空間関係(生産/消費/所有)を明らかにすること、(2)その過程をとおして山谷の「社会空間」分析を試みることをめざしたものである。本研究で取り上げる「社会空間」とは、都市・地域社会を特定の地理的属性や空間概念で捉えるものではない。ポスト・フォーディズム以降の都市空間内部に生成される社会的な営み(公的領域/私的領域)が分節化するなかで浮上する社会的な葛藤が個々の行為主体の空間的な"葛藤"へ変換される過程、あるいはその個々の行為主体の"抵抗"が「都市」を多元的・多層的に創出する過程、その動的な過程そのものが決定する「影響場としての空間」をしめす〔Harvey1979〕。本研究では、そのような「社会空間」分析の射程から都市の野宿者を対象とした実証的な研究をおこなった。そこで、具体的な調査研究として、山谷周辺の女性野宿者を対象とした事例研究・調査および山谷周辺に設立された女性野宿者のグループホームでの参与観察をおこなった。 それらの調査研究をとおして、「都市」の労働/消費/所有をめぐる「ジェンダー化された空間」〔渋谷1996〕の切断面に位置する女性野宿者をめぐる重層的な権力関係や空間的な配置(「労働力の女性化」「貧困の女性化」など)に対抗する女性野宿者の"小さな戦い"への応答をめざした。
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