1999年度は、主として、植民地時代における朝鮮半島の社会事業に関する文献や資料の収集と分析を行った。これまでに収集できた文献や資料は、韓国国立図書館をはじめ、慶応義塾大学付属図書館、法政大学大原社会問題研究所、日本女子大学図書館、北海道大学付属図書館、山口大学付属図書館に所属されている『朝鮮社会事業』や『朝鮮事情』『朝鮮社会事業要覧』『朝鮮総督府官報』『土幕民の生活・衛生』などである。 これらの文献や資料の中で、今年度は雑誌『朝鮮社会事業』の分析を試みた。この雑誌は創刊(1923年5月)から1944年1月までほぼ毎月発行されていた。同雑誌は当初、朝鮮社会事業研究会が発行していたが、1929年1月から朝鮮総督府厚生局社会課内におかれた財団法人朝鮮社会事業協会に同研究会は改称され、さらには、1935年7月号から『同胞愛』と改題され、発行され続けられた。同雑誌は毎月3千冊発行されており、朝鮮の社会事業に関することだけではなく、日本の社会事業に関する記事や統計(調査結果など)、研究論文、法制度などについての内容が掲載されている。また、朝鮮総督府の動きが「内鮮融和」政策=植民地政策と連動して朝鮮社会事業に対する干渉となっていく経緯が明らかにされている。特に、社会事業から厚生事業へと転化する過程は、戦前・戦中の日本の社会事業の特質が、植民地支配関係にある朝鮮にも影響を与えたといえるだろう。 今後の課題は、同雑誌は創刊号から20巻1月号までであるが、閲覧・複写した中には欠号や未確認の発行号もあるため、今後も発掘作業を継続したい。また、朝鮮総督府といういわば行政側の資料による公的社会事業に関する分析なので、民間社会事業などの私的社会事業からの朝鮮社会事業の特質を検討し、各文献や資料から総合的に分析したい。
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