本年度の研究計画は、(1)これまでに収集できた植民地時代における朝鮮半島の社会事業に関する文献や資料の補足調査、(2)韓国内の児童、高齢者、障害者、地域福祉館の資料発掘、(3)植民地時代の社会事業に従事した行政官、施設従事者などの関係者へのインタビューを実施することだった。(1)については、慶応大学図書館所蔵の雑誌『朝鮮事情』(朝鮮銀行調査部)の大正9年〜昭和13年までの資料を収集した。この雑誌は朝鮮銀行調査部が植民地時代の朝鮮社会情勢の概略を毎月発行したものである。朝鮮の経済・政治・文化そして社会事業について記載されている。当時の養老院、孤児院、さらに貧困者層の生活様子が把握できる資料である。また、韓国中央図書館では、『朝鮮統治論』『社会事業講習会講演録』(大正12年、昭和9年)の資料も入手できた。植民地時代の資料のマイクロ化が進みつつあるので、今後も植民地時代の社会事業に関する文献・資料の発掘の必要性がある。(2)と(3)については、主として高齢者施設の文書資料の収集を行ったが、現存するソウル養老院では当時の文書資料などが散逸しているということで今回は収集できなかった。当時を知る退職した修道女(元従事者)へのインタビューのみとなった。今後も引き続きインタビューを実施しながら、資料の発掘を行いたい。韓国では、主として朝鮮総督府が置かれていたソウル市を中心に資料調査やインタビューを実施してきたが、これまでに入手した資料から、テグ市やキョンジュ市の社会事業施設の文書収集や当時の関係者へのヒヤリングの必要性が明らかになった。さらに、今後は、大阪・堺市の「故郷の家」(在日韓国朝鮮人のための老人ホーム、設立者はモッポ市で植民地時代に孤児院を創設した沢田氏の子ども)へのヒヤリングをとおして、植民地時代の社会事業について補足したいと考えている。
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