本研究は、植民地時代における朝鮮半島において、わが国の植民地支配と社会事業がどのような影響をもたらしたのか、また特質をもっていたのかについて、資料・文献ならびに当時の社会事業に従事していた人々のヒストリーなどから分析することを目的としたものである。本年度は、本研究の最終年度となるので、これまで収集できた資料や文献などの分析を行うとともに、補足調査を実施し、研究成果をとりまとめた。 本研究で収集した植民地時代の朝鮮半島の社会事業に関する文献・資料ならびに韓国の社会福祉研究者からの聞き取り調査の分析から、植民地時代の社会事業の特質について以下の3点が考察できた。(1)植民地政策の一環として、わが国の救護法が導入され、朝鮮総督府による救貧事業、社会事業施設が組織化された。その背景には、植民地政策の秩序維持と支配強化をはかるための日本の社会事業が手段として利用された傾向が強いことである。(2)特に民族独立運動に対して、朝鮮総督府は「宥和政策」として社会事業を位置づけていた。朝鮮における社会事業の発展に寄与するためとして、朝鮮社会事業協会の設立と「朝鮮社会事業」の発刊、日本の社会事業施設への視察を強化する事業を展開させたことはその一例である。(3)植民や政策の一環ではあったものの、朝鮮半島の歴史と文化と社会的特性の中で、朝鮮独自の社会事業のあり方を模索し実践してきた当時の朝鮮の官僚や社会事業家などの存在も大きかった。今後の研究課題としては、植民地時代の京城市(現・ソウル特別市)という中心都市ばかりでなく、地方にどのように継承され、あるいは地方独自で展開されてきたのかという視点にたって、ハングルで書かれた文献・資料の発掘と当事者への聞き取り調査などの実証的研究による考察を行う必要がある。
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