本研究は、「流域社会」の凝集性が河川の環境保全に貢献してきた点に注目しつつ、現代的な新たなネットワークにもとづく「流域社会の再構築」とそれによる河川環境の保全の可能性について社会学的に考察しようとするものである。 流域社会における近代化過程は、優位な中心としての下流(都市)から劣位な周辺としての上流(山村)への様々な「システム」とその「要素」の一方的な流入と、様々な「資源」の上流から下流へのやはり一方的な流出という形を取った。別の言い方をするならば、下流の都市からは「意味」が上流の山村へともたらされ、上流からは「モノ」「ヒト」が下流へと引き寄せられていった。こうした状況の下で、山村の人々が都市からやって来る圧倒的な「システム」や「意味」に対抗してオータナティブな何かを提示することは非常に困難なことである. われわれは、由良川最上流域に位置する美山町芦生地区を調査対象地とした。芦生地区の人々は、ダム建設に対して反対を貫き、山菜加工組合を設立・発展させた。芦生の人々は、「資源」を下流に奪われるのではなく、独自の「意味」を担った商品を下流へと送り出し、さらにそのことによってUタ-ン、Iタ-ンという形で「ヒト」の確保にさえ成功したのである。 芦生地区のダム反対運動と村おこしへの取り組みは、美山町に対して、一方では、公共事業依存型経済への傾斜を不可能にし、他方では、豊かな自然と茅葺き民家の残存率の高さという地元にある資源を観光資源として活用するという政策を採らせることとなった. 本研究は、こうしたプロセスにおいて芦生と美山町が都市居住者とのネットワークをいかに効果的に利用し、グリーンツーリズムで全国的に注目されている美山町の今を現出させたのかを明らかにした。
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