研究概要 |
本年度は、構造効果にかんする先行研究のレヴューを中心に作業をおこなった。構造効果については、統計的・計量的研究は数多いが(たとえば Boyd,L H.And G.R.Ivcrson1979 Contextual Analysis:Concepts and Statistical Techniques.などがある)、数理的研究は少ない。しかし「構造効果」とうたわれていない研究でも、構造効果のモデルを展開するのに大いに参考となるものがある。つまり、集団の特性が個人の行動や意識に影響を及ぼすことのできる「社会的なプロセス」ないしは「メカニズム」を理解するのに有用な研究であれば、参考となるのである。 その1つに、J・S・コールマンが1964年に出版されたIntroduction to Hathematical Sociologyのなかの第7章がある。それはコールマンがサーベイ・リサーチの伝統を受け継いで、「多水準にわたる関係のシステム」をとり扱ったものである。具体的には、信念と活動にかんする個人水準の命題から小集団における信念の一致度と活動度合いにかんする集団水準での命題を導出している。コールマンが依拠しているのは連続時間を前提とするマルコフ過程モデルであるが、これを社会学でお馴染みのマルコフ連鎖モデルに転換することは簡単である。またコールマンの関心は、個人水準の命題を組み合わせて、集団水準の命題を演繹的に導出することであった。これを構造効果という問題設定にのせるためには、個人水準ではなく相互行為の水準の命題を組み合わせて、集団の特性が個人に影響を与えるメカニズムにかんする命題を導出するようにしてやればいい。次年度の課題も、そこにある。
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