わたしはかって数学者J.G.ケメニーとJ.L.スネルのアイディアに依拠して、社会移動データにみられる離農のプロセスを、吸収マルコフ連鎖モデルによって表現してみたことがある(小林1992)。それ以来、吸収マルコフ連鎖モデルは、社会学にとってきわめて有力なツールとなることを確信するようになった。そして本研究の主題である構造効果に対しても、吸収マルコフ連鎖モデルを適用したことがある(小林1995;1997)。しかしそれは、かならずしも満足できるものではなかった。 そこで本研究においては、構造効果の数理解析の基礎として、吸収マルコフ連鎖モデルを社会学的現象の記述・説明に使用する際に、意外と見落としがちな論点を明確にするように努めた。その結果、平均訪問回数の概念を明確化するとともに、吸収マルコフ連鎖の基本特性量として、「平均推移数」という新たなものを提示することができた。そして下記の1997年の論文において展開された相対的剥奪の数理モデルに対し、平均推移数を計算し、相対的剥奪が構造効果として存在する場合の特徴をみてみた。これで構造効果に関する数理モデルの構築作業が確実に一歩前進したものと確信する。 文献 1992 「記述的階層研究からの前進」『理論と方法』7(1):57-65頁 1995 「構造効果の数理モデル」『福岡大学・人文論叢』第27巻3号 1105-1121頁 1997 「構造効果の数理モデル最訪」岩木健良編『社会構造と社会過程のフォーマライゼーション』(科研成果報告書)75-83頁
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