バングラデシュは、1971年の独立以降、諸外国から膨大な額の資金が投入され、さまざまな開発と援助が行われてきた。特に二国間援助を見ると、バングラデシュは日本の無償資金協力の最大の援助受入れ国である。にも関わらず、今日でも半数の人々が絶対的貧困の状態にあり、その約80%が農村に居住している。また、5歳から14歳までの子どもたちの約20%が、家族を助けるために労働を強いられ、これらの子どもたちの約90%が未就学である。それゆえ、貧困を背景とした多くの非識字者が存在し、識字率は低いままである。こうしたことは、バングラデシュの社会問題の1つとして挙げられている。 本研究では、こうした貧困と非識字の問題へのアプローチといった視点から、農村開発、都市スラム、子どもの労働(特に子どものメイド)を主要な社会開発問題として取り上げ、バングラデシュへの支援について考察している。その内容は、以下のとおりである。第1に、日本の無償資金協力が農村の貧困層に及ぼした影響という視点から、農村開発の現状と貧困層の生活状態を調査し、その諸成果を報告している。具体的には、「モデル農村開発プロジェクト」による技術協力と小学校供与を取り上げ、その実施状況や諸成果を考察している。第2に、首都ダッカのスラム居住者の生活状態を、スラム強制排除がスラム居住者に及ぼした影響という視点から現地調査し、考察している。第3に、農村の親元を離れ、首都ダッカで他人の家に住み込み、メイドとして労働している子どもたちの生活状態とこのメイドの雇用主、保護者、保証人の三者の関係を、現地NGOの協力を得ながら現地調査し報告している。バングラデシュでは、貧困問題や識字獲得への支援が主として現地NGOによって行われてきたが、ここでは政府の役割が小さいことが特徴である。しかし、いずれの取り組みも、諸外国の政府やNGO、国際機関等からの援助に依存している。そのため、援助のあり方がそれらに大きく影響している。そして、日本のODAには、現地NGOに対して継続的な支援をもっと増やしていくことが求められている。また、バングラデシュ政府の政策や対外援助の取り組みにしても、農村に居住する最貧困層を優先して継続的な支援を実施するべきである。
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