文献研究および、系統的に行われた大量観察に基づく調査報告書を相互に綿密に検討し、その一方で助産婦職能団体、医療系大学、病院勤務助産婦、助産院開業者らの有資格者からの聞き取りを実施した。これらの作業を通じ、出産の正常性-異常性の判断軸を医師-助産婦に典型的に見られるスタッフ間の権力関係の結果としてだけとらえるだけでは不十分であり、むしろ病院組織それ自体のもつ構造的特性に目を向ける必要が認識された。 総合病院の組織は一般的に医長、看護部長、産(婦人)科婦長、産婦人科医師、助産婦、看護婦といったスタッフによって構成され、<安全な出産><妊産婦の満足感>といったことはすべてのスタッフによってめざされている課題である。にもかかわらず、その職業的位置によって、正常産のプロである助産婦に対する評価や期待は異なる。具体的には正常産をよりきちんと介助できるように、という期待の一方で、分娩異常にもきちんと対処でき医師と同レベルの知識と技術をもつこと、他科の患者の看護もでき病院全体の視野をもつこと、など、異なるベクトルをもつ期待が寄せられている。そうした期待の交差の中で、なによりも助産婦自身が、助産婦としての自分の技術に対してもつ信頼感が極めて低い結果が認められた。 こうした現状を招く要因を考察していくと、1)病院組織自体がもつ構造的要因が、こうした結果に影響している可能性、具体的には専門職であるにもかかわらず、配置転換の対象となっていることや、勤務上交代制をとることからそれぞれの出産の軌跡への継続的な関わりが中断されること、そのことがもたらす産婦との共同作業意識や達成感が得られないこと(これらは開業助産婦がもっとも助産専門家としてもつ醍醐味であるが)2)出産率の低下が病院組織全体における産婦人科の位置を低くすること、これに伴い、助産婦職の需要を低くさせる結果として、助産婦がその専門性を必ずしも必要としない他科に配属されるということが一般的に行われている。出産率の低下はさらに助産婦教育の現場における、正常分娩の介助を行う機会を減少させている。こうした中で、少しずつであるが、出産のヒューマニゼイションにその安全性と同レベルの価値をもたせた出産のあり方に対する志向と連動した助産婦職能の再評価は医療・看護にとっても大きなヒントになりうる。
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