研究概要 |
今年度は調査地域選定と文献資料収集に重点を置いた。農漁業の地域的特性とその労働の質,地域構造と地域社会における伝統と現代産薬との関係,女性農漁業者組織化との関係など,基本的な因子をさぐることにつとめた。奈良県内の数カ所,三重県,広島県,長野県,沖縄県などの特質ある農漁業地域での予備調査と資料収集を行った。 女性が主体的に農漁業にかかわるための方向と条件整備は,現代の農漁業政策の課題でもあり,われわれも従来の補助的,従属的労働と役割からの転換をのぞんでもいる。しかし,この1年の知見から,兼業化,機械化のすすむ現状では,女性の主体的労働は局部化し,むしろ男女の役割の分化――つまり男性が中心的に農漁業にかかわり,女性が加工と販売にかかわるという「古くて新しい形」の分化――が形成されるようにおもえた。機械化や技術の導入によって人手を多く必要としない農漁業はむしろ男性の孤独な作業となり,加工や販売は女性の組織化によって開発促進される傾向がある。男女共働が基本となっているのは,機械化のすすまない部門である。漁業は種別によっては,-例えば海女,一本釣り,シジミ漁,養殖など-,現場から販売までを女性が主体的に担うが,伝統的に夫と妻の役割が決まっている例が多い。「近代化」という概念からとらえれば,一体どれをもって農漁業の近代化というのか。労働と人間の関係は,次年度の課題である。 女性農漁業者の意識形成には,地域構造,労働の質,地域環境(設備,伝統,慣習など有形無形の環境を含む),そして家族などが大きく影響すると思われる。それらの因子と因子間の力学的関係について,次年度のフィールド調査によって見きわめたいと考えている。
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