現代の農漁業を取巻く環境は刻一刻と変化しているといっても過言ではない。主要産業として農漁業が占める位置、農漁業への社会的認識、政策と地域行政、農産物の多様化と養殖漁業、そして農漁業従事者の意識など、それらは関連し複合して、農漁業そのものを変貌させる要因となっている。かつては家族経営の中で顕在化しない補助的労働とされた女性就業者が、農漁業の複合的な変貌の過程で、その労働、役割、意識はどのように変容してきたのか。現代の女性就業者にとって農漁業就労は、職業選択のつとなったともいえるし、また結婚という人生の節目によって就労という選択が伴ったという場合も多い。そうした面から、就業への動因と就労意識の形成の過程をとらえるために、生活史から析出する方法を用いた。 女性の就労動機で分類すれば、1.戦前期から高度経済成長期まで、2.高度経済成長期から1980年代後半まで、3.1990年代から現在にいたる時期、にわけることができるように思う。1.は、農漁業が家業として受け継がれ、男も女も選択の余地はほとんどなく、特に女性は「家」という単位の・員として家族従業・補助的労働に明け暮れた時期である。労働そのものも苛酷であった。2.は、女性も農漁村から出て行くこと、職業選択が認められた時期である。家業とは異なる職業につくものと、農漁業に残留するものとが分離しはじめた時期である。3.は、農漁業就労女性が、新たな方向を模索し活動を展開しはじめた時期である。自主的な組織化がはじまり、加工、販売の活動が新しい形ではじめられた時期である。 これらそれぞれの時期の労働・役割・意識を、文献と聞き取り調査による生活史によって析出しようと試みた。特に、職業選択が許される時期以後の農漁業就労への転機や意識形成を動的にとらえたいと努めた。
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