過疎地域の公共交通機関の中心である路線バスとタクシーは、ともに存続の危機にある。前者は生活路線補助政策の転換により、民間バス事業者が経営に耐えられず路線を廃止・撤退する事例が急速に増え、地元自治体による市町村代替バスが急増している。その数は、1994年度において443市町村、2652系統におよび、これは市町村数にして1980年度の3.16倍、運行系統数にして同じく8.42倍にあたる急増ぶりである。 また、乗合バス事業の需給調整による路線免許規制が2001年度に廃止される方針が打ち出されているが、これに伴って過疎地域の赤字バス路線の廃止がさらに進行することは当然の帰結として予想されるところである。よって、過疎地域においては移動に制約を受ける住民が大量に産み出され、地域の崩壊と一層の過疎化が進行することになる。移動に制約を受ける住民は、その移動需要との関連で見れば、生活必需品の購入、通院などの手段として生存権、通学手段としては学習権、通勤手段として勤労権を奪われることになり、社会生活ものものが不可能になることを意味する。 このような点からは、住民の移動手段の保障、すなわち交通権の保障の視点が重要である。特に少子高齢社会における福祉的対応として、バス交通が中核に位置づけられなければならない。 公共交通の捉え方に関しては、日本と欧米との間に著しい相違が存在している。都市あるいは地域内の交通手段の維持が、公的なサービスとして地方自治体や国の責務とされ、費用の半分以上を公的な補填によっている。すなわち、公的サービスの提供が地域住民全体の利益になるという認識である。交通権の保障も、こうした公共サービスの認識によっている。
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