本研究は、現代ドイツで進行している学校の自律性(Autonomie der Schule)の強化の現状とそれを生みだしている歴史的背景とを解明することを課題としていた。3年間の研究成果の概要は以下の通りである。 1)1950年代南西ドイツにおける私立学校法が、伝統的な国家による学校統治体制を転轍する端緒であったこと、同時にその制定には1960年代後半以降の公立学校の改革運動の指導的人物となるヘルムート・ベッカーが密接に関わっていたことが解明された。 2)「自律的な学校」の創出を通した「管理された学校」の克服という、ヘルムート・ベッカーの教育思想が、ドイヅ教育審議会(1966-1975年)の諸勧告に一貫して反映され、とりわけ1973年の勧告に直截に提示されたことが解明された。 3)1973年のドィツ教育審議会諸勧告が十分には具体化されない状況で展開された、「良い学校」に関する実証的学校研究と学校開発理論という二つの教育学研究の営為とその成果が、1990年代以降の学校の自律性の強化を特徴とする教育改革の理論的背景となっていることが解明された。 4)現代ドイツの自律性の強化を特徴とする教育改革の典型的事例としてブレーメン州を分析し、そこでの改革が教員と父母と生徒の参画と協働に基づく自律的な学校の創出を志向する構造となっていることが解明された。
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