初年度は、フランスの中等学校内部における制度的分化の原理と実態の解明、ならびに選別主義を払拭する試みの一つである近年の政策動向の分析を、文献資料ならびにフランス本国での調査から行なった。そこで得られた知見は次の通りである。 1.前期中等学校(コレージュ)内部の制度的分化の中心である進路指導システムは、学業成績という一元的価値の下での生徒の振り分けに終始していた従来のあり方から、生徒側の主体的選択を重視したシステムへの転換が模索されているものの、実際には進路分化に関する階層間=学力間格差は根強く残存していることが統計資料から明らかとなった。その原因として、後期中等教育(リセ)の普職の課程間の社会的威信の格差、普通教育課程内のコース間格差という制度的制約に加えて、生徒自らの自己選別の有り様が大きな影響を与えている。自己選別は選別主義の補強的役割を果たしているとみられ、その解明が急務である。 2.学校の選別主義を払拭する可能性の一つとして近年の学校自治拡充策の一貫としての「特色ある学校づくり」に注目し、その現状把握のためにフランス本国の国民教育省計画開発局(DPD)評価担当局長のF.Louis氏から聞き取り調査を行った。その結果、近年導入された学校評価システムは、各学校の自律的経営とそれによる学校独自の<教育効果>を生み出す努力を促すものであり、これにより成績以外の種々の要素に関する学校サイドの自己点検評価が促され、さらに学校をみる多様な視点が学校および国民の間に形成されることが期待されていることが判明した。伝統的に刻印された学校制度全体の選別主義を乗り越えるための新しい取り組みとして注目される政策である。
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