本年度は、フランスにおける選別のメカニズムを学習者側から捉えるために、生徒の進路に関する選択的行動・意思決定の過程に作用する諸要因の分析と、選別主義を払拭するための学校自治政策に関する動向の分析を、文献資料ならびにフランス本国での調査から行なった。そこで得られた知見は次の通りである。 1.Ballion氏の先行研究に基づき、生徒の進路選択に関する意志決定の過程を、A.親の階層、家庭環境、学業成績等の個人的要因、B.社会的通年、認識や学校内部での進路指導等の制度的要因、の2つに分けて分析した。その結果、親の社会階層が低く、かつ落第経験が多い者ほど職業リセに進学するケースが多いことが確認された。特に落第経験が自己選別機能を著しく高めており、これが選別主義の補強的役割を果たしていること、また、この傾向は近年ますます顕著になっていることが統計上から明らかとなった。 2.学校の選別主義を払拭する可能性の一つとして近年の学校自治拡充策の動向、ならびに教育全般に関する聞き取り調査をE.MORIN氏ならびにJ.-L.Derouet氏から行い、合わせて文献研究を行った。その結果、学校自治を進展させるために近年導入された学校評価システムは、各学校の自律的経営とそれによる学校独自の教育効果を生み出す努力を促すものであり、これにより成績以外の種々の要素に関する学校サイドの自己点検評価が促され、さらに学校をみる多様な視点が学校および国民の間に形成されることが期待されていることが判明した。また学校自治の奨励によって近年学校間格差が生じており、これを調整する目的で新たに学校査察制度を設ける準備が開始され、そこには参加の理念が取り入れられる等注目すべき内実が含まれていることを明らかにした。
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