本年度は、過去二年間に行った研究の総括をするとともに、特に選別主義を払拭するための新しい教育理念と教育行政システムの刷新の動向について分析した。そこで得られた知見は以下の通りである。 1.伝統的な選別主義を乗り越えるべく1980年代以降採用された新たな公教育原理である<多様性>は、特にコレージュ段階で<統一性>との理論レベルでの葛藤を抱えながらその再構成が行われた。その舞台となった90年代末のコレージュに関する国民的論議では、多様性の拡大が学校教育の一体性を脅かしかねないとの危惧から、多様性の一定の抑制が図られ、統一性・一体性との調和的な両立を目した再定義の試みがなされた。 2.選別主義を乗り越えるための新しいパラダイムとして第二には<現代化>modernisationを挙げることができる。これは、アングロサクソンの国々と異なる独自の論理で市場的要素を摂取することで旧来の国家主義的・官僚主義的教育行政を改め、効率をめざした教育統制のあり方を模索するものであった。しかしその効率は財政効率ではなく、国民の要求に見合った適切な教育サービスを当事者たちの責任において提供する、という学校の自律性確立とアカウンタビリティの観点を内包するもので、新しい公役務概念と共通するものであった。選別の観点からすれば、学校主体の選別から生徒主体の選別への転換にあたってこの両者は鍵的要素になるとして政策上最上位に位置づいている。近年さらにこの新しいシステムを補完するための評価体制作りが進められているものの、現時点では課題が多い。さらに経営的観点に基づく学校内の組織形成を自律的学校作りにつなげていく作業も今後に残されている。
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