研究概要 |
平成10・11年度と研究対象にしてきた公立中学校の教師のもとで引き続きフィールドワークを行う予定であったが、異動先の中学校での体制が整わず、実施することができなかった。そのため、本年度は、別のデータの分析や文献研究を通じて理論的枠組みの精緻化をはかることに力を注いだ。 (1)IRE連鎖と活動システム-私の研究では、主たる理論的枠組みとして、エンゲストローム(Y.Engestrom)の「活動システム」を用いてきた。一方、教室文化についての先行研究では、「IRE連鎖」(開始Initiation-応答Reply-評価Evaluationからなる教室会話の単位)を中心とするミーハン(H.Mehan)の概念装置がしばしば使われている。本研究では、ミーハンの研究が、活動システムのもつ《対象志向的で道具媒介的な側面》と《規範や役割を介しての相互行為的な側面》のうち後者に焦点をあてたものであることを、まず論じた。その上で、IRE連鎖によって、活動システム(とりわけ土台部分にあたる《ルール》や《分業》)が構成されていくさまを、具体的な教室会話の分析を通じて描きだした。また、教室文化を形成・維持していく上では、そうした活動システムの土台部分だけでなく、《対象》や《道具》などが重要な役割を果たしていることを明らかにした。 (2)塾教育と学校教育の関連-平成10・11年度の研究成果のうち、塾教育と学校教育の関連に関する部分を第9回世界数学教育会議で発表した(What Does Juku Going Do to School Mathematics Learning?: The Conflict of Two Math Cultures(TSG-13).The 9th International Congress on Mathematical Education. Makuhari, Japan.July 31-August 6,2000)。また、塾教育についてさらに検討を進めるため、関連資料を収集し文献研究を行った。近いうちに、塾でのフィールドワークも行う予定である。
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