研究成果報告書掲載の論文「学習のコンテクストの理論的枠組み-活動システムを分析単位として」を作成した。本稿は「I 問題設定/II 学習のコンテクストの分析単位としての活動システム/III エンゲストローム理論の具体化と拡張/IV 授業と教室文化/V 学習のコンテクストの重層性と多様性/VI 事例検討-探究の文化と受験文化の間で/VII 結び」からなる。IV・VI章では、教室文化、教室の数学文化を直接の検討対象としたが、全体的には、学習のコンテクストに関する理論的枠組みの構築に力点をおいた。分析単位としてはY.Engestromの「活動システム」概念を用いたが、本研究では、四つの事例検討を行うこと、および、状況的学習論、問題解決研究、相互行為分析、教室文化研究、教師研究などの成果をあわせて取り入れることにより、Engestromらの活動理論的な学習論に対し、以下の点で精緻化・拡張をはかった。(1)活動システムのレベル-教室を主たるフィールドとしつつ、それがコンテクストの重層性と多様性の中にどう位置づくかを示した。(2)個々の学び-学習は集団的活動であると同時に個人的行為でもあるという視点から、個々のメンバーの学びの特質やプロセスの分析を行った。(3)活動と活動システムの区別-両者を区別し、両者の関係を「相互反映性」によってとらえることにより、授業と教室文化の関係を明確にした。(4)活動のプロセス-学習のコンテクストの理論に含まれるべき時間軸として、(1)活動システムの「非連続的で質的転換を伴う変化」、(2)活動システムの「連続的で漸進的な変化」、(3)活動のプロセスの三つを上げ、Engestromにおいては(2)(3)が欠落していることを指摘した上で、(3)を行為の連鎖のパターンとして記述・検討した。(5)活動システムの連続的変化とディレンマ・マネジング-上記の(2)について、教師のディレンマ・マネジングと関連づけながら、記述・分析した。
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