研究概要 |
本年度は,日本とスコットランドとの間にみられる交流面のうち,とくに,(1)お雇い教師の招聘,および(2)岩倉使節団の英国視察をめぐって,考察した。いずれについても,英国における現地調査と国内における日本側の政府文書の検索・収集をおこなった。 (1)については,とくにヘンリー・ダイアー(Henry Dyer)をめぐって考察した。第一に,ダイアー帰国後に企画された日本歓迎事業は第一次大戦の勃発で実現せず,かわって醵金をもとに工学関係図書が購入された。その「ダイアー博士記念図書」122冊のうち二十数冊を東大工学部の図書室で探索し確認をした。第二に,ダイアーが指導した工部大学校では,成績優秀者への褒賞として高価な洋書が授与された。東大総合図書館で,校長ダイアーの署名入りの賞状が付されたそうした洋書3冊を探索し,確認した。第三に,スコットランドには「ダイアー・コレクション」といって,かれが持ち帰った在英日本関係資料がある。書冊,美術品,楽器類からなり,グラスゴウおよびエディンバラの博物館と美術館に収蔵されている五つの資料群を調査し,それぞれの内容を具体的に探索した。 (2)については,スコットランドにおける地元の新聞報道を数多く収集した。具体的な分析作業の成果はまだまとめるに至っていないが,ローカルな小新聞でも使節団一行の公式視察だけでなく,非公式の見学旅行についても関心が向けられ報道されていること,したがって,公式記録『特命全権大使米欧回覧実記』には記載されていない別行動もあったこと,などにかかわる情報と資料をうることができた。 また,先行研究の検討作業として,特に英国訪問から125年目にちなんで1997年に英国およびヨーロッパで開かれた記念行事,とりわけ記念シンポジウムに注目し,その報告内容を考察した。その一つであるロンドン・スクール・オブ・エコノミックスのサントリー・トヨタ国際センターで開催された記念シンポジウムの報告書『1872年英国の岩倉使節団』を分析し,そのなかの一篇を『岩倉使節団の英国視察』と題して翻訳・紹介した。
|