研究概要 |
本年度は,日本とスコットランドとの間にみられる交流面のうち,とくに,(1)留学生の派遣,(2)お雇い技師の招聘,(3)学術文献の輸入をめぐって,考察した。あわせて,研究素材となる内外の史料・文献を求めて,調査・収集を積極的におこなった。 (1)については,竹鶴政孝のスコットランド留学をとりあげ,竹鶴の留学はグラスゴウ大学での学修だけでなく,むしろウイスキー醸造所での実地修行をつむという,実学重視の学習スタイルであったこと,この留学体験にもとづいてウイスキー醸造技術を日本へ移転したこと,留学中にスコットランド人女性と国際結婚をしたこと,などをめぐって考察した。(2)については,R.H.ブラントンをとりあげ,かれは日本で洋式灯台建設を指導しただけでなく,英国に発注して建設資材の輸入や職人の招聘も指導したこと,日本での技術指導の体験は帰国後に英国土木技師協会で報告されたこと,お雇い技師としての職責を果たすさい種々の苦悩やトラブルに遭遇したこと,などを明らかにした。(1)(2)はいずれも,O.チェックランド論文の翻訳作業をすすめるとともに,同論文を手掛かりにして考察を深めた。 (3)については,工部省お雇い教師H.ダイアーの署名入りの図書,および「ダイアー博士記念図書」を分析した。具体的には,ダイアーが指導した工部大学校では成績優秀者へ褒賞として洋書を授与する教育慣行があったこと,東大総合図書館にはダイアー署名入りの賞状が付されたそうした洋書が3冊確認されること,卒業生の田辺朔郎の遺品にも受賞図書が26点確かに残されていること,ダイアーの帰国後にかれの日本歓迎事業が企画されたが第一次大戦の勃発で来日できず,かわって工学関係洋書が購入されたこと,その「ダイアー博士記念図書」のうち二十数冊が東大工学部の図書室に現存していることなどを,調査結果にもとづいて指摘するとともに,日本近代工学教育の発足時におけるダイアーの先導性をあきらかにした。 研究成果報告書では,3年間の研究成果をまとめ,お雇い英国人教師の招聘,英国留学生の派遣,使節団の英国視察,学術文献の輸入,日英交流史研究の成果の考察,という5章から構成される報告書を作成した。
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