我が国の大学の流動性は移動によって規定されるが、その大学の流動性という場合、主として三つの次元における流動性が考えられる。すなわち第一の次元には大学の機関の流動性、すなわち組織的流動性と呼ぶことができる。第二の次元としては大学教授市場の流動性、すなわち組織間流動性とか学問的分野間の流動性さらには地域間(国際間を含む)の流動性、あるいは外部市場間の流動性などが考えられる。さらに第三の次元としては、大学教員のキャリア形成の次元の流動性がある。 我が国の過去20年間における大学の流動性を検討した場合、それぞれの次元において特徴が見られる。文部科学省の『学校教員統計調査報告書』に準拠して分析してみると、次の結果が得られた。 1.組織内の流動性は、自校閥は大学のタイプでは研究大学、分野では医学部や商船分野において依然高い。 2.大学内の移動という流動性は91年の大綱化以降、教養部解体、大学院の重点化および組織的再編成によって高まった。 3.市場内の大学間の流動性は大学・学部の新増設によって高まっており、とりわけ公立大学への移動率は年間3%ポイント以上の値を示した。 4.大学外市場からの移動は全体的に高まったが、医保健分野に集中しており、その他の分野においてはそれほど著しいものではない。 5.大学教員のキャリアは40代、50代の流動性が高まってきた。 6.しかし、こうした流動性は大学・学部の新増設によって生じたものであり、任期制などの人事的な装置による純粋移動によって招来されたものではない。 以上のことから、我が国の流動性を高めるためには、任期制とテニュアー制、教員評価の一層の見直しが要請される。
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