本年度の研究では、昨年度から引き続き、沖縄県内の小学校が百周年などを記念して刊行する学校記念誌に掲載された回想記録や座談会記録を資料として、近代沖縄における方言札の実態について調査・研究を行った。本年度は、沖縄島周辺の島々の小学校を対象とした。明らかにできた点は以下の通り。 第一に、方言札の基本的特徴について改めて確認できた。沖縄言葉を話した児童が方言札を首からぶら下げられ、その児童は沖縄言葉を話した児童を見つけて渡すのである。 第二に、方言札が方言禁止と標準語励行以外の用途に使われていたとする事例が見いだせた。無断で学校外へ出た児童に罰として札が渡されたというのである。この回想で指摘されている札が方言札であったとすることは保留するとしても、教員による指導方法の一つとして「札」が多用されていたことを示していることは考えられる。 第三に、「正しい発音」という認識に言及している1940年代前半の回想が見られた。その時期には、「正しい話し方」、「正しい発音」を強調して標準語教育が進められており、この回想はそれを徹底する方法として方言札が用いられていたことを示唆していよう。 第四に、多くの小学校で方言札が存在したことが確かめられた。なお方言札に関する回想記録の得られなかった小学校のうち、座間味、南大東、北大東、伊江については、それぞれの村史に方言札が存在したことが記述されている。学校記念誌を資料とする以上、このような資料的な限界があることを率直に認めなければならない。 来年度も継続して、同様の調査を沖縄島地域の小学校を対象として行う予定である。
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