本研究は現代日本の教育改革に対する問題意識から、ドイツの教育改革論議との比較研究を試みるものである。本年度はドイツの「学校の自律」論議の枠組みの整理・分析を進めると同時に、98年中教審答申以後の「学校の自主性・自律性」に関する日本の諸議論の枠組みの整理を進めた。 日本では、従来の理論的立場の違いに関わらず、「学校の自律性」の強化、地方教育行政の自主性の確立が支持されている状況がある。そうした状況は「学校の自律性」の教育制度論的な意味をつきつめた考察しないまま、すべてを「運用」の問題として捉え直す視点の転回によってもたらされていること、「学校の自律」の理論的意義を追究するためには、社会思想的な文脈におけるリベラリズム批判としての共同体論(コミュニタリアニズム)の評価が不可欠であること、を明らかにし、論稿にまとめた。 ドイツでは「学校の自律」はすでに一部の州で法改正を経て実際に動き始めている。その背景として指摘される二つの要因、財政政策的要因と学習論的要因のうち、特に後者についてのもっとも体系的な文書であるノルトライン・ヴェストファーレン州の「未来の学校」委員会報告書の分析を進め、論稿にまとめた。その中で、特に外的な制度改革のプランとしての「学校の自律性の拡大」が、従来の学校像、学習論といった教育内的な改革と不可分に結びついて構想されていることを明らかにした。日本の議論では、制度論は一般に学習論と切り離されて論じられるから、この点はきわめて示唆的であった。
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