本年度は、(1)まず研究代表者勤務校のある岐阜県を事例として、戦後地方大学の展開過程の調査研究を行なった。大学の成立と発展を高校・大学間接続の視点から考察し、その結果、戦後本格的な転換が模索された中等教育に比して、大学は新学制にふさわしい改革を実行する条件に乏しかったこと、特に岐阜県などの地方においては劣悪な状況は基本的に60年代まで続いたことなどを明らかにした(その成果の一部は『岐阜県史続現代』に発表)。ついで、(2)戦後改革期の、高校の教科課程構造と大学の教育課程(一般教育・専門教育の理念・制度)の双方を検討して、ここに高校の全教育課程が大学の前段階のとして位置づく可能性がすでに内包されていたことを論じた(本研究報告書所収研究論文として発表)。(3)しかし、昭和31年の学習指導要領改訂によって高校普通科進学コースから大学への接続が主となり、実態上高校職業科が大学の前段階に位置づかなくなったことを明らかにした。(4)こうした状況に拍車をかけたのが、我が国においては「普通教育」や「一般教育」が、固有の意味をもった伝統のなかで培われた全人的教養としてではなく、専ら高等専門教育の準備として認識された点にあったこと指摘した(その成果は「中等教育史研究会」発表)。(5)他方、大衆化した今日では、そうした歴史的な「教養」の系譜を土台にしつつ、あわせて、市民的・職業的な教養をもう一つの柱にして中等教育と高等教育を接続する必要がある。そのためには、高校普通教育と大学一般教育、高校職業教育と大学専門教育の相互の密接な接続を教育課程面から制度化することが鍵となっている。この点を本研究報告書所収論文等において論じたが、教育課程編成の具体的なあり方については、今後に残された研究課題である。
|