本研究の目的は、1980年代末からのデュアルシステムにおける職業訓練の危機論議を、職業訓練財政の視点から分析し、デュアルシステムの今後の動向を予測すると同時に、危機論議の中で現れたデュアルシステムの公共性についての現下の問題状況を析出することであった。 本年度は昨年度のドイツでの現地調査を含めて収集してきた職業訓練財政に関する文献・資料を整理分析しつつ、同時にいくつかの研究会において研究成果を発表し、わが国における職業教育・訓練の研究者と意見交換を行ってきた。この間の研究を通じて得られた知見は以下の通りである。 1.この間の企業のデュアルシステムからの撤退傾向の要因とされている、企業による訓練コストの負担は、業種や企業規模による差はあるものの、全体としては訓練生の生産活動や、長期的な雇用政策から見て引き続き一面的に企業側からは否定的に評価されているわけではない。 2.しかし、世界的な競争に直面している製造業の企業、特に大企業は、コスト削減に迫られており、短期収支の重視政策からデュアルシステムからの撤退傾向を示している。 3.そして、実は製造業における職業訓練がデュアルシステムの中心的存在であったことから、このことがデュアルシステム全体の危機として認識され議論を引き起こしていること。 4.とはいえ、現在デュアルシステムに代わる新たな訓練システムはなく、このために政府はその維持のため各種の規制緩和を行い、企業のデュアルシステムに対するインセンティブを高める政策を取っている。 5.しかし、このことはデュアルシステムの持つ公共的性格の変質に至る危険性を孕んでいる。
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