本研究では、1990年代以降のデュアルシステムの動揺の主たる要因が、企業デュアルシステムからの撤退傾向にあると考え、その実態と今後の方向について検討した。分析は主に、1991年、1995年及び1997年に行われた連邦職業教育研究所の大規模な実態調査報告、および同研究所での聞き取り調査に基づいて行った。その結果は以下の通りである。 1.企業がデュアルシステムにおいて負担するコストは、訓練生の生産的活動を考慮するとさほど大きいものではなく、これが企業の撤退の唯一最大の要因とはいえないことである。 2.とはいえ、世界的な競争に巻き込まれている製造業大企業での状況は厳しく、この部分でのコストパフォーマンスの悪化は、デュアルシステムからの企業の撤退を加速させていることが明らかになっている。 3.しかし、実は製造業こそがこれまでデュアルシステムの中心的役割を果たしてきた部分であることを考慮すると、このことがデュアルシステム全体の構造改革の必要性を強く世論に意識させていることである。 4.そこで現在、デュアルシステム維持をめざす政府および労使団体は企業に対し、デュアルシステムによる労働力養成が、長期的に考えた場合コスト的にも有利であることを強調している。 5.さらに政府は企業のデュアルシステムに対するインセンティブを高めるために、職業訓練に対する税制上の優遇、職業学校授業の短縮とこれによる訓練生の企業での生産的活動時間の増大、企業訓練に対する規制の緩和等、職業訓練における「企業化」の方向を打ち出している。
|