最近は世界各地で発生する文化間紛争とその解決に向けた研究が主要な研究動向の一つとなってきている。日本においても、かつて、1899年に制定された「北海道旧土人保護法」の廃止とこれに代わる「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」という新しい法律の制定が1997年にアイヌの要求に基づいてなされるに至った。本研究では、日本における文化間紛争が、非暴力的な文化的-政治的要求をかかげる運動へと移行し、さらに政治的な「語り(言説)」における両義的解釈という紛争解決戦略によって法律の制定が実現された過程を、文化人類学的視点から実証的、科学的に検証し、紛争解決における文化的メカニズムの分析を行った。 本年度は、情報資料とインタヴィウー資料の追加収集、整理、分析作業を行った。さらに、前年度に引き続き問題の解決が各当事者によってどのように受けとめられ、さらにどのような新たな反応を展開させるかという問題解決後の行動についても追跡調査した。また、北海道阿寒湖畔において50年間続けられてきたまりも祭りを、対立から共生へのメカニズムという視点から分析し、アイヌの帰属性(アイデンティティ)と民族的共生の過程を明らかにした。その結果、(1)アイヌの民族性の最も深い部分にある精神性の演出により、新しいアイヌ文化の創造が行われていること、(2)この祭りの創造と実行を通して民族的な共生関係が形成され、それが維持されていること、(3)そこでは、アイヌとしての民族的帰属性が、アイヌと和人とを含むより広い集団への帰属性に移行していること、が明らかにされた。そして、これら研究成果を総括し、最終報告書を作成、出版した。
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