現ミャンマー政府による「国民文化形成」政策は、1990年代に入って、周辺諸国との文化交流が活発となりボーダーレス化が進行する状況の中で具体化してきた。多民族国家ミャンマーの国民文化が、どのように選択され、保存され、あるいは創出されていくかの過程について、平成12年度は、平成11年度に続き「ビルマ文化中心主義と地方文化・少数民族文化」及び「観光財産としての伝統文化」のテーマに関して、受け入れ機関である大学歴史研究センターの研究者の援助を得て、資料蓄積を行った。具体的には2000年12月から2001年1月にミャンマーを訪問し、非ビルマ族の中でも最多の人口を擁し、政治的にも文化的にもビルマ化の影響を受けてきた少数民族シャン族の文化的状況について、北部シャン州を中心にフィールドワークを実施した。また平行して国内での資料収集を継続した。その結果、次のような知見を得た。 シャン族は、シャン州のみならず、他の州のシャン族と連携しながら、伝統文化の保存に努力してきている。この活動は、あくまで政府によるビルマ文化中心主義の脈絡におけるマイノリティとしての許容範囲内に限られる。そのような状況にもかかわらず、首都ヤンゴン市内にはシャン語文献印刷工房が存在してシャン族の「知」の活動を支えている。シャン州各地のシャン伝統文化保存委員会は統合の動きがあり、現在その討議が継続中である。換言すれば文化活動のネットワークが機能しているのである。シャン文化が観光財産として活用されていくかどうかは不明だが、少数民族自身による「伝統文化」意識の萌芽が認められることは確かである。シャン語の「文化」にあたることばはビルマ語の「文化」と同根である。シャン文化は、まさに民族間関係におけるビルマ文化の視座の中で、その伝統性を醸成してきているのである。今後の動向が注目される。
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