地神盲僧とは、盲僧琵琶を弾じて仏説地神経や釈文を唱え、堅牢地神、竈神、水神、あるいは死者の死霊などを慰撫する能力を持つとされ、西日本を中心として活動する盲目の民間宗教者である。彼らは、鎌倉期以降、地域の基層的な民間信仰の形成と維持・再構成に大きな影響を与えたとされる。本邦の盲僧琵琶の二大流派のひとつである九州南部を中心に活動する常楽院流薩摩盲僧と、九州北部を中心として活動する玄清法印流筑前盲僧に関しては、幾人かの研究者によりすぐれた史料と研究の蓄積がなされている。 しかし、藩政期の段階までいずれの流派にも属さず、独自のアイデンティティを保持していた、旧防長両国(現在の山口県)の地神派地神盲僧に関しては、現在まで一部の研究を除いてまとまったものは提示されておらず、また、地神盲僧の祭祀儀礼を具体的に報告した研究も極めて少ない状況である。本科研においては、これら三派の地神盲僧を対象として、その具体的な祭祀儀礼の実修や伝承を調査記録したが、今回の報告に際しては、特に旧防長両国(現在の山口県)の地神派地神盲僧に視点を定め報告を行った。報告では、春期農事開始前の予祝儀礼的な性格を有する地神祭と、夏期に行われる鎮送儀礼的な性格を有する虫送り儀礼についてその祭祀儀礼実態を明らかとなし、「五郎王子譚」に示される世界観を儀礼において表出せしめたものと理解される四方(東西南北)四節(春夏秋冬)と「中央」とからなる儀礼空間の構成などを検討した。また、豊浦郡豊浦町川棚台集落でかつて活動していた地神盲僧に関する聞き書き資料から、地神盲僧の活動が如何に活動地域の信仰的世界観の形成と関わっているかを考察し、地霊・水神・死霊などの統括的な供養、慰撫をなし得る宗教者としての地神盲僧の性格を指摘した。報告に際しては、研究代表者が撮影した映像資料を編集し、DVDビデオ形式のDISC1〜2として添付した。
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