本年度は、海外での研究報告と三重県での実地調査を主として行った。 (1)従来行ってきた、北タイ、ナーン県農村の近代的システムによる福祉・医療の普及を含む開発と文化の再編の問題について整理し、その成果を、7月4日から8日にオランダのアムステルダム行われた第7回国際タイ学会において報告した。本大会は、「市民社会」が統一テーマで、農村部における新たな組織化も重要なテーマであった。報告者は、プラチャーコム・ナーン(県レベルでの行政、住民組織、NGOのネットワーク組織)の地域開発での役割を報告し、「市民社会」という枠組みで議論する機会を得た。 (2)老人-高齢者の社会的位置に関する事例の調査。主として三重県海山町引本地区を中心に調査を行った。過疎化・高齢化、世代間の断絶によって伝統文化の継承が困難となり、高齢者の社会における役割が希薄化している。文化保存活動は役場や一部の高齢者に担われ、一般の高齢者はカラオケを楽しみとしている。「知恵の源」としての「老人」から「援助の対象」としての「高齢者」への転換が進んでいると考えられる。しかしながら、住民に開放的な公民館が老人会の活動を支え、商店を中心とするインフォーマルな「寄り合い」や庚申講などが高齢者相互の支え合いの場を提供している。更に地域文化に理解のある医師の存在も高齢者の心の支えとなっている。 以上を踏まえ、来年度は、北タイ・ナーン県における「高齢者クラブ」(老人会)の活動を調査する。タイの場合、環境保護・文化保存・教育・宗教・医療・福祉など異分野間のネットワークが作られつつあるが、日本の場合、政策の施行は分野別に行われがちである。ただし日本でも、地域における個人は、様々な分野にまたがるネットワークによって支えられている。こうした実態を掘り下げ、公的サービスの関わり方を再考する。
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