平成11年度は、海外での研究報告と三重県での人類学的調査を行い、平成12年度は、三重県での補足調査とタイ国ナーン県での人類学的調査を行った。調査では、高齢者の活動に焦点をあてた。具体的には、老人クラブ(高齢者クラブ[タイ])をはじめとする高齢者の活動を中心に、高齢者に対する公的サービス、宗教との関わり、文化の継承における役割など高齢者の置かれた位置を明らかにすることを目的として、特定のコミュニティを民族誌的に描くことを試みた。三重県では北牟婁郡海山町H地区を、ナーン県ではターワンパー郡パーカー区を事例として、将来の比較研究のための資料としての記述を行った。 海山町H地区では、漁業の衰退を背景とした過疎化・高齢化、伝統的相互扶助機能及び伝統文化の衰退の中、老人クラブの活動は女性を中心に活発である。ただし、海辺の溜まり場(男性)や商店(女性)など公的に認知されない様々な活動がある点にも注意するべきである。開発の模範地区ターワンパー郡農村でも、若者の都会への流出がみられるが、教育・宗教・医療など異分野間のネットワーク作りも活発である。また、寺院は、老人の溜まり場であると同時に、役割を与えるものとして重要である。 分野別に政策が行われがちな日本であるが、地域の個人は様々なネットワークに支えられていることにも目をむけるべきであり、宗教の役割も見なおす必要がある。アジア社会では、近代的「福祉」のあり方と伝統的相互扶助のあり方との相互作用が問題となっている。欧米のみならず、アジア社会の「福祉」のあり方に目を向ける必要がある。
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