本研究は、芸能研究で重要性が指摘されながら進展がなかった俄を主題に、次の3点を目的とした。1.現在主に祭りの芸能として行われている各地の俄を足場に、近畿・東海・北陸・九州地方を重点調査することで、新たに俄の様相を掘り起こし、俄というものの概念を考究する。2.上記によって得た成果をもとに、芸能史において俄を歌舞伎の本質、また歌舞伎や能狂言を生み出す原動力とする学説を質す。3.俄のホームページを作成し、これまで蓄積した俄に関わる情報を漸次公開することにより、研究と保存振興、また交流に新たな可能性を開く。 研究成果として、1.については重点調査から得た成果を盛り込み、「俄の領域」「機知の伝統-馬の頭・天王祭の俄から-」の2論文を執筆し、拙著『歌舞伎・俄研究資料編室戸市佐喜浜町俄台本集成』(2002年2月・新典社)に収録した。2論文は各地の現行の俄と近世尾張の祭に関わる俄の様態をもとに、民俗芸能や芸能史のなかにその位相を質し、俄を、庶民の風流を体現する新奇な趣向とみ、機知の伝統をなすものとして、笑いの芸能民俗と措定している。従来の即興劇という見方を大きく修正しえたと思う。 2.については、上記2論文を踏まえ、「俄の発想と歌舞伎」と題する論文を執筆し、同じく拙著に収録した。俄たらしめる要件を現代性・逸脱性・意外性と措定し、以上を俄の発想として歌舞伎の重要な芸であり手法である「やつし」との共通項を軸に、歌舞伎の根幹に内在する俄の発想を指摘した試論である。 3.については、「にわかのホームページ」を作成した。俄ネットワークとして漸次充実していきたい。
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