本研究では現代の東南アジアにおけるキリスト教の実態に関する研究動向を整理すること、さらにそれにもとづいて個別の事例研究を行うことを日的とした。研究動向については国内の関係機関等で資料収集を行ったほか、第1年度(平成11年度)にはタイ(バンコク)およびベトナム(ホーチミン市)において、第2年度(平成12年度)には米国聖書協会文書館、ユニオン神学校図書館および文書館(Union Theological Seminary Burke Library)、シラキュース大学(Syracuse University)図書館他で史料調査を実施した。 事例研究ではフィリピンのイグレシア・ニ・クリスト(Iglesia Ni Cristo)という土着のキリスト教会を事例とし、その成立と発展の過程、さらには近年のフィリピン国外への進出について調査し、論文を作成した。同教会は20世紀初頭にフィリピンでフィリピン人により創始されたキリスト教会で、神学的には三位一体論を否定するユニテリアンの立場をとり、とくに第2次大戦後に教勢を拡大した。さらに過去10数年間に多くの賛同者を獲得し、新しい宗教勢力としてフィリピン社会に登場したエル・シャダイ運動に関する基礎資料を収集した。フィリピンはカトリックが多数をしめる国ではあるが、イグレシア・ニ・クリストやエル・シャダイをはじめとする少数派のキリスト教会の動向に注口することにより、フィリピン社会における宗教構成の変化の様相を理解することができる。
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