研究概要 |
本研究の目的は,南西諸島域における自然生態系が地域の共同体によってどのように持続的に利用されてきたか,その実態の解明と,そこにおいて平等原理がどのように,そしてどの程度作用しているか,その仕組みについて,生態人類学的および環境民族学の視点からアプローチすることである。本年度も,文献調査と現地調査を並行して研究をおこなった。現地調査は,9月と3月にのべ2回,沖縄県知念村久高島を中心としておこなった。今年度の調査では,とくに,島の生活の変化と平等原理の変容について観察と聞き込みをおこなった。復帰後30年をへて,島の生活環境は大きく変わった。人口は30年前の半分になり,過疎化の進展が著しい。当然ながら,自然利用の実態も大きく変化している。とくに地割制度に基づく土地利用は大きな変化をこうむっている。地割り制度は,税金収集の目的のために創始されたが、狭い離島においては耕地の平等利用の機能もはたしていた。その変容を調べた。また,エラブウナギ漁は,かつて,島の貴重な現金収入源としてノロと村頭の家族に特権的に利用されてきた資源であった。利用が一部のものに限定されているという点では不平等であるが,同時に,村頭は年齢順に回ってくる仕組みになっていたため,通時的には平等原理にのっとったものでもあった。しかし,これも村頭を担当するものがいなくなったために従来とはことなる運用を余儀なくされ。またそれも近年消失した。このような島の生態系利用と密接に関連していた特徴ある生業システムが,社会環境の変化によってこうむった変容を子細に検討することによって,それまで暗黙のうちに生態系の持続的利用に関わってきたさまざまな社会的原理の働き,とくに平等原理の機能が明らかになってくる。また,これまでに蓄積されたデータの解析と文献調査により,海南島の黎族における自然生態系の持続的利用に関する分析をおこなった。
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