本年度は史料蒐集に努めた。3月末の韓国出張では、大田市の「政府記録所」において戦前植民地統治下の司法関係(保護観察・予防拘禁など)の史料を調査蒐集した。国内では、国立公文書館・外交史料館・国会図書館憲政資料室を中心に調査した。 二つの新たな方向性が見えてきた。一つは、治安警察法の制定と運用に関するもので、初期社会主義・労働運動の台頭を予測する治安立法という従来の通説的理解を乗り越え、明治憲法体制に照応した安定的・恒久的な法制定の意図があったことや、その進化と限界性に注目した(2001年4月刊の論文集に掲載予定)。今年は、1920年代以降の運用を検討するとともに、韓国・朝鮮における保安法制定などとの連関にも注目し、本主題の構成要素の一つとしたい。 もう一つは、治安体制と密接にむすびつく「思想統制・教学錬成」体制の創出と展開についてで、主に日本国内の1930年代以降の史料を蒐集することと並行して、台湾・朝鮮における植民地教育に関する史料を集めはじめた。これらに関しては多くの先行研究が蓄積されており、それらに学びつつ、「治安」「教学錬成」という別の視点から論じる立場を見いだしたい。 2000年9月に刊行した『思想検事』では、紙数の制約から十分に植民地・「満洲国」の思想司法体制について論じることはできなかったが、とくに朝鮮における治安維持法の運用や「満洲国」司法部との人的交流などを指摘した。
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