本報告書は、「「大東亜治安体制」の構造と実態」という研究課題についてのものだが、実際には、その一部を構成する「外務省警察」の、さらにその部分である「中国における外務省警察」に限定されている。「大東亜治安体制」の全体像を構想するにはまだ時間がかかるが、それでもその重要な一翼を占める「外務省警察」については、地域を中国に限定してはいるものの、おおよその概観はできたと思われる。これから、「朝鮮・韓国における外務省警察」および総論としての「外務省における外務省警察の位置」をまとめ、「外務省警察体制史」としての完結をめざしたい。そのうえで、「大東亜治安体制」という本来の課題に取組む予定である。 外務省警察(領事館警察ともいう)は、戦前に日本が朝鮮・韓国(一九〇六年まで)、中国、そしてタイの領事館に設置した特異な警察機関である。日本政府はその存在の根拠を日朝修好条規・日清修好通商条約という不平等条約にもとづく領事裁判権に求め、そこから強引に領事警祭権を引きだし、在留民の保護取締と権益擁護を当然の権利とした。ことでは、一般的にはその存在すら十分に知られていない外務省警察の実態を明らかにし、外務省の対外政策のなかに占める位置や、全治安体制のなかで占める位置を考察することに努める。 とはいえ、本報告書は「中国における外務省警察」の実態の解明にとどまっている。構成は、外務省自身が戦前に編纂した『外務省警察史』の構成、すなわち「満洲」「間島」と中国関内という地域的なくくり方を踏襲している。それぞれの地域の特性に対応した外務省警察のあり方をみるうえでは、この手法が有効と判断したためである。
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