本年度は、本研究の成果をまとめる年度であるために、平成11年度の調査の結果を踏まえて補足調査を重点的に行った。特に近江地方における古代寺院に関する遺史跡の実踏調査を行い、当該地方における奈良仏教の展開を研究する上で重要と思われる観音信仰・薬師信仰に関係した泰澄と行基をめぐる縁起・伝承及び仏教美術史に関する史資料の収集を行った。加えて、昨年度来日願った在米の仏教美術史の研究者との意見交換のために渡米し、あわせてボストン美術館に架蔵されている古代仏教美術史に関する史資料の閲覧と所在調査を実施した。この成果が、成果報告書に掲載したサミュエル C・モース氏の論考である。本研究の目的の一つでもある日本仏教史と日本仏教美術史との対論を行うことによって、奈良仏教の信仰的な解析を進捗させようとの試みを前進させたといえよう。 本研究の成果のとりまとめてとしては、調査地域での成果の一端をまとめるということであるが、これについては佐賀県有明地方に点在する行基に関わる薬師如来像の分析結果をまとめた。古代国家の救済の信仰として機能していた薬師信仰が、行基によって庶民救済の信仰に転換されていくなどの信仰構造の変容を明らかにした。今後、この事例を踏まえて近江地方などでの調査成果もとりまとめる予定である。なお、こうした調査の成果をまとめる一方、調査期間中に作成してきた奈良仏教に関する研究文献のデータの集成も行い、これも一部ではあるが成果報告書に掲載し、学会の共有財産に供した。
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