江戸幕府の公文書管理の実態を解明するために、本年度は(1)江戸幕府および幕政にかかわる史料、(2)諸藩における幕府との文書のやりとりにかかわる史料、(3)農村における幕府との文書のやりとりにかかわる史料、について調査・分析を行った。 (1)については、『徳川実紀』『徳川禁令考』『日本財政経済史料』などの基本史料の他、『政談』『民間政要』『地方凡例録』『大岡越前守忠相日記』など、官僚や知識人の著作を読解した。いまだ作業の途中であるが、これらの史料を通して、18世紀前半の享保の改革が公文書システムの整備の重要な画期であることが確認された。 (2)については、東京の徳川村政史研究所、東京大学史料編纂所、国文学研究資料館史料館、都外では兵庫県小野市立好古館、三重県四日市市史編さん室などの所蔵史料を蒐集・分析した。このうち、幕府の公文書管理とは直接かかわらないものの、小野市立好古館所蔵一柳家文書の中に、寛永期の転封・分知のさいに城付(国有)の財産書上と、家産分割のリストを作成していたことが明らかになった(拙稿「寛永期における一柳氏の転封と分知」『相剋の中世』東京堂出版、2000年刊行)。 (3)については東京周辺の農村文書を蒐集・分析した。この結果、同地域では、近世前期の検地帳や年貢関係史料の他、中期に幕府法令を蓄積する機能をもった御用留帳類が整備されたことが明らかになった。
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