2000年度は、当初は、第一に、摂関期の言語の暴力(嘲笑・悪口)や殴打・闘乱など暴力の多様性を分析する。また、武士の対極である群盗の実態・社会関係を解明し、武士の性格と対比する。第二に、後白河院政期を対象に、王権と武力の関係・武士政権の成立が京や王権に与えた影響を考察する。これによって、武士政権成立の意味や平安末の武士の性格変化を再検討する予定であった。 第一の課題のうち、摂関期の暴力の諸形態については、西山「新・年表『盗・闘』」(『研究成果報告書』)を作成した。本年表によって、950年〜1050年にわたり暴力の諸形態を容易に検討できるようになった。当初はこれを基礎に、嘲笑・悪口や闘乱・刃傷さらに合戦を個別的に分析する依頼を受けたが、これは達成できていない。一方、武士の対極である群盗については、その実態・社会関係を解明した(西山「京中<群盗>の歴史構造」)。京中では、群盗は武士の暴力を凌駕することが判明し、武士論再検討の興味深い素材となった。 第二の課題では、式士政権成立に至る過程の解明に努めた。まず、院政期の権門の実態を検討し、院や摂関家などの公家権門が武力を内包しながら、保元・平治の乱を経て、武力を喪失し、代わって平氏という軍事権門が成長する原因・経緯を分析した(元木「院政期の権門」)。また、通説を批判しながら、平氏政権を再検討し、さらに後白河院との対立などを把握した(元木『乎清盛の闘い』)。一方、源義仲・鎌倉幕府といった武士政権と対比しつつ考察を加え、幕府成立の意義の見直しを試みた。 総じて、摂関割の暴力の多様な形態から、院政期にかけて武士が成長し、公家権門から分立するという一定の見通しを得ることができた。今後は、この観点をいっそう深め、各々の時期の特色についてさらに考察していきたい。
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